未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―27話・生き地獄を行く―



照りつける太陽が、火のように暑い。
ここはフライパンの上だろうか。
冷涼、あるいは極寒と呼ばれる地で生まれた身には、文字通りの生き地獄。
そんな中、プーレたちはダムシアンの港町を目指していた。
とは言っても、灼熱地獄のダムシアン砂漠。
ただでさえ、熱さが苦手という大きなハンディがある彼らが昼に動けるわけもなく、
小さなオアシスの近くでテントを張り、ひたすら夜が来るのを待っていた。
「雪がほしいよぉ〜……。」
「氷―……雪だるま……ぶーりざーぁどー……。」
普通の人間が聞いたら、それこそ冗談ではない単語も混ぜつつ、
暑さでうつろな目をしたパササとエルンがつらつらと願望を垂れ流す。
なんだか傍から見るとナメクジが這っているようだが、
もちろんプーレもナメクジの中に入っている。
「も〜やだ……なんで砂漠って、こんなにむだに……暑いのさぁ!!」
ばてて荒い息ながらも、力いっぱい恨み言をプーレが叫ぶ。
だが、テントの入り口から空に居る暑さの犯人をにらんで叫んでも、
当の太陽はそ知らぬ顔をしている気がして、余計に腹が立つだけだったが。
「お日様なんて、早くつかれてしずんじゃえばいいのにぃ……。」
「そーだなー〜……。」
アルセスも額の汗をぬぐいながら、他の仲間のようにテントの入り口から空を眺める。
残念ながら、太陽はまだまだ元気いっぱいのようだ。
エルンの願望は当分叶いそうにない。
“ま、まぁまぁ落ち着け……。
日が暮れたら大分しのぎやすくなるから、それまで何とかがんばれ。”
ルビーが何とか慰めようとするが、それはいらだったあるメンバーの逆鱗に触れた。
「うっさーい!!石のお前が言ってもイヤミなんダヨー!!」
“あ〜快適、快適♪”
パササが爆発してルビーに食って掛かるどさくさにまぎれて、
エメラルドがいらないセリフを口走る。
“お前は黙ってろエメラルド!!”
普段でも十分迷惑な類の発言だというのに、
よりによってこんなタイミングでかますという神経がルビーには理解できない。
石なので少々変な話だが、殺意の1つも沸いてこようというものだ。
「ねぇ……どこまで行くんだっけ……?」
ダムシアンまで出るというあたりまで事前に話をした後、
山を下ったところでルビーの提案で町に行くとまでは覚えている。
だが、暑さで煮えかかった脳みそでは、港町ということが出てこない。
“海沿いの港町。暑さで脳みそ蒸発したー?”
「ちがうよぉ……とけちゃったんだよぉ……。」
溶けたといいつつ、エメラルドのからかいに微妙な反応を律儀に返すエルンは、
まだギリギリ元気が残っているのか、はたまた条件反射なのか。
「いっしょじゃないの、それ……?
あ〜も〜……どうでもいいー……。」
サファイアがあったら涼しくしてくれたかもしれないと考えるが、いまさらである。
もっとも彼女があったところで、そう都合よく涼しくなるとは限らないのだが。
「なぁ、港町って後どのくらいだ?」
“んー、とりあえず海まででも、あと1日は歩かないとだめかなー。
町まではさらにあと半日ちょっと。”
『うっそぉ〜……。』
エメラルドの返事に嘘だ嫌だとぼやいても、海までまだ距離があるのは紛れもない現実だ。
“夜になったら出発だから、それまで眠って置いた方がいいぞ。”
「こんなに暑かったらねれないよぉ〜……。」
“……そこはまぁ、頑張れ。”
エルンに抗議されても他に言いようもやりようもなく、
ルビーは歯切れの悪い励ましをして茶を濁した。




―夜―
昼間は地獄のように暑い砂漠だが、夜は嘘のように気温が下がる。
この気温差は体には毒だが、ともかく暑くないので動くにはいい時間帯だ。
「わー、すずしくなったネ!」
「ほんとだねぇ〜。」
昼間の地獄と比べれば天国のような外気に、パササもエルンもご機嫌だ。
プーレもアルセスも、もちろん気分は一緒だ。
「うん。よーし、眠いかもしれないけど、今のうちに出来るだけ海に近づこうな!」
『おー!』
アルセスの号令で掛け声をかけてから、テントをたたんで出発する。
この時間帯が涼しくて快適なのは他の生き物にとっても同様で、
当然夜は他の地方以上に活動する魔物が増える。
「あ、あれってえーっと、サハギン?」
「食べられるかなぁ?」
もちろんモンスターを倒すことが出来れば、そのままそれは食料ということになる。
食事にも向いているというわけだ。
それがはなから計算に入っているので、全員食べられそうなモンスターを探していた。
今夜のターゲットは、デザートサハギンで決まりのようだ。
「それ!」
起き抜けでまだ動きが鈍いサハギンに、アルセスが背後から脳天にこぶしの一撃を加える。
獣人族の腕力は相当に強く、頑丈なデザートサハギンの頭が深くへこんでしまった。
もちろん、即死だ。
「わー、すごいねぇ〜。」
力がなければ出来ない技に、エルンが手をたたいて喜んだ。
殴って倒すようなことはプーレ達子供には出来ないためか、
目がきらきらと尊敬しているように輝いている。
単に、食糧を華麗に調達して見せたからかもしれないが。
「へへ、まぁこいつ位なら楽勝だよ。
ばらしてやるから、ちょっとまってな。」
「オッケー!」
得意そうな笑顔を見せて、アルセスは手早くデザートサハギンを分解し始めた。
獣人の自慢の爪で、ナイフのようにどんどん肉をそいでいく。
その手際のよさは、見ていて楽しいくらいだ。
“それにしても、アルセスが加わってからまた楽になったな。”
「うん、そうだね。やっぱり大人がいると楽だなー。」
何しろ子供だけだと、テント1つ立てるだけでも苦労するのだ。
厳密にはまだ大人になりきっていないアルセスだが、
頼もしさは十分すぎるほどである。
“ま、力と体力と『身長』があるしなー。”
「何で身長だけ強調するんダヨ!!」
“さ〜ぁ、何でだろうなぁ。”
わざとらしく他人事ぶって、エメラルドはどこか楽しそうに言った。
自分はもっと小さいくせに、なぜパササを身長をネタにしてからかうのだろう。
プーレにはよく分からないが、ちょっとひどいとは思った。
「もー、ぼくらは子供なんだから、小さいのは当たり前だよ……。」
「ま、まぁすぐにお前らだってでっかくなるって。」
何しろまだ人間で言えば5歳くらいなのだ。
今が小さい分、後でいくらでも大きくなる見込みがある。
そういう気持ちが伝わったかどうかはともかく、
パササは矛を収めて、しとめられたデザートサハギンをつつき始めた。
早く食べたいのか、食べる前に遊びたいのか。たぶん両方だろう。
「ねーねー、こいつって焼いたらオイシイ?」
「ん?どーだろーなぁ……。
おれがここを通った時は、たきぎが無かったから生で食べちゃってたし。
ほら、お前らと違っておれには魔法がないからさ。」
生で食べて腹を壊さないという点が、さすが獣人族と言うべきか。
「そっか〜……。じゃあ、焼いてみよっか?」
「やってみよぉ〜♪」
男の野外クッキングとかこつけて、さっそく火を起こすことにする。
とはいっても、燃料となるものは転がっていないので、
当然今回は魔法の火を使うしかない。
「ルビー、ファイア使ってくれる?」
“ファイア。”
省略された詠唱が唱えられると、砂の上にぼっと火が現れる。
燃えるものはないが、サハギンの肉を焼く間くらいなら大丈夫だろう。
「焼肉焼肉〜♪」
「おいしくなれぇ〜。」
パササもエルンも、上機嫌でくしに刺したサハギンの肉を火であぶる。
肉食のデザートサハギンは臭みがあってあまりおいしくないのだが、別にいいらしい。
そもそも何でも食べる悪食かつ大食い種族なので、
気にならないのだろう。
「いいなー、2人ともちゃんとそういうの食べられて。」
きらきらと目を輝かせる2人に、うらやましそうにプーレが言った。
チョコボなので、プーレは肉を食べることができない。
無理に食べるとおなかを壊す恐れがあるので、仕方がないことだ。
前に買ったギサールや木の実の残りと、オアシスに生えていた植物が食事だ。
「そういえばプーレ、まだギサールのこってるぅ?」
「うん、そっちはだいじょうぶ。ふもとの町で買ったしね。」
キアタルとの国境にある町でかなり買い込んだので、そちらの心配はない。
新鮮なギサールが食べられないことはさみしいが、
むしろ昼間の灼熱地獄の方がよっぽどこたえる。
「それより2人とも、ご飯それで足りそう?」
「うん、バッチリだヨー♪」
「よかった。足りなかったらまたとってこようかと思ってたけどな。」
アルセスも、2人がよく食べる事はもうちゃんと心得ている。
足りているという返事を聞いて、安心したようだ。
何しろ、足りなかったら一大事なのだから。
「ねーねー、港の方ってちょっとはすずしいのかなぁ?」
「どうだろ……わかんないや。」
川の近くは涼しいが、海の近くはどうなのだろう。
少しは涼しいといいのだが、そうは問屋がおろさない。
“海辺は……たぶん暑いだろうな。”
「わ゛〜ア゛〜〜!」
「パササ、変な声でてるぞ……。何の鳴き声だ?」
ルビーから気の毒そうに言われて、パササが頭をかきむしりながら奇声を発した。
いきなり訳の分からないことをされて、横でアルセスがちょっと引いている。
“あー、伝説の魔獣ベヒーモスの鳴き声。”
“全然違う。わかってていうな!”
もう何度つっこまれたら、エメラルドは気が済むのだろう。
暑くても普段と調子が変わらないのは石だから当然なのだが、
今はともかく昼間やられるとイライラする。
「はぁ……遠いなぁ。」
「お船に乗ったら、お魚食べられるのになぁ〜。」
「どうでもいいよ……なんかだるいなぁ。」
本当ならもう野宿の仕度を始める時間なので、いまいち調子が出ない気がする。
昼間たっぷり寝ているから、眠いわけではない。
むしろ目はギンギンなくらいだ。
うまくはいえないのだが、
たぶんこれからが寝る時間だと体が思い込んでいるせいなのだろう。
「お前ら、昼間寝たから大丈夫・・だよな?」
「あ、うーん……たぶん。」
「たぶん平気……かなぁ?」
アルセスが念のため聞いてみると、返ってくるのはなんとも頼りない返事ばかり。
「あ、そうなのか……。」
調子がいいのかいまいちなのかよくわからないが、
何だか先行きに少々不安を感じてしまいそうだ。
もっとも、その分自分がしっかりすればいいかと、
アルセス自身が一人で納得しているので問題はないだろう。
幸い、モンスターの気配も遠かった。
「あ〜……なんかさ、地面がびよ〜〜〜んとかもり〜〜ってなってさ、
1分で街にいけたらいいのにネ。」
「わ〜、それいいよねぇ〜。波乗りだぁ〜♪」
パササやエルンの頭の中には、
きっと生き物みたいに盛り上がって港町へ一直線に進む砂漠が浮かんでいるのだろう。
“いや、そんなことになったら大変だと思うんだが……。”
“なんかホラー入ってないかー?うわ、怖い怖〜い。”
六宝珠がつっこむ通り、パササの言い方だとファンシーだが、
実際に見たら相当怖い光景に違いない。
少なくとも、目的地の港町の住人が見たら、間違いなくこの世の終わりと錯覚するだろう。
もちろんそういう想像力が、年端も行かない2人にあるわけがない。
「……飛空艇があったらいいのにな。」
ボソッとプーレが呟いた言葉は一番現実的な希望だが、
砂漠のど真ん中では叶わぬ望みという点では、パササの願望と大差がなかった。
それでも、歩けば歩いただけ目的地までの距離は縮まる。
海まで1日。港町までは1日半と少し。
灼熱地獄との戦いは、もう少し続く。



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いつものような遅筆もさることながら、暑苦しい時期に暑苦しいネタですみません。
現実はムシムシ、小説はジリジリ。何にせよ熱中症になりそうな話です。
後半は一応まだ涼しい方ですが、終始パーティはローテンション気味。
次でようやく港町につきます。そういえば、カイポとかは出した覚えが(確か)ないです。
どちらの長編でも、今のところ用事がないので仕方がないんですけどね。